Europeanaは、2008年に、EU内の図書館、文書館、博物館、ギャラリーが所有するデジタルコンテンツのサービスプラットフォームとして構築された。
2013年にEUのデジタルサービス基盤向けの予算が大幅削減された時、Europeana事業の継続も危ぶまれた。(参考:https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=6067)2008年から2014年を対象とした初期の助成が終了するにあたり、
2015年以降の資金獲得のために
外部調査機関がEuropeana事務局の委託を受けて作成したリポートがある。少し古いが、同様のサービスを日本でやるとした場合に、計画と評価に関して得るところがあるかもしれないので、ざっくり紹介。
SEO Economic Research. The Value of Europeana (2013).
http://pro.europeana.eu/files/Europeana_Professional/Publications/Europeana%20Strategy%202020-%20Value%20assessment%20SEO.pdf
まず、この調査リポートの調査課題は、下記の通り。
2015年から2020年にかけてEuropeanaのサービスとインフラを維持・拡大するために継続的な投資をすることの社会経済的価値は何か。
コストは当時策定中のEuropeana Strategic Business Plan 2015-2020に基づき、2015年1月1日時点での純現在価値(NPV)を5370万ユーロとして計算したそう。
●経済効果
リポートでは、以下5つのユーザグループについて、記載する算出方法に基づき経済効果を分析。
- Europeanaで提供されるサービスやインフラはオープンソースであり、これらを利用しているGLAM(ギャラリー、図書館、文書館、博物館)は数百に上る。これらのツールは各機関における一般ユーザ、研究ユーザとのコミュニケーション改善をもたらすと同時に、サービスやインフラの開発コストを削減した。経済効果の算出方法: デジタル化と情報通信システムに関する支出の推定削減値(%)
- 一般市民もまた恩恵を受けている。ヨーロッパ内外のアートや文化、文化遺産に関心のある市民がEuropeanaのウェブサイトを訪れ、電子展示会やテーマごとのアクセスポイント(例: Europeana 1914-1918, Europeana 1989)を訪れている。また、ソーシャルメディアでEuropeanaをフォローしたり、Europeanaのアプリをダウンロードしたり、イベントに参加したりしている。経済効果の算出方法:Europeanaウェブサイト、電子展示会、ソーシャルメディアの閲覧時間、Europeanaのオフライン展示会やイベントの滞在時間、各機関のオフライン、オンラインの訪問者増加率(%)
- 第三に利益があるのは観光客である。Europeanaが提供するデータベースを用いて作成されたウェブサイト、アプリ、ガイドブックを使っているかもしれない。アートや文化資源に関する情報が入手しやすくなることは、ヨーロッパの魅力向上に役立ち、特に従来あまり知られてこなかった地域や文化遺産の魅力を伝え、集客を図ることができる。経済効果の算出方法:滞在日数または滞在中の支出の推定増加率
- 第四のグループは、いわゆる「クリエイティブ・インダストリー」と言われるセクターである。例えば、アートやカルチャー、文化遺産や旅情報に関する本を制作する出版社、歴史的な情報を求めているジャーナリスト、リサーチを行うアーティストやデザイナー、またメタデータを用いるゲームやアプリの開発者などは機械可読性の高いメタデータサービスや、パートナー機関からの一次情報入手により利益を得る。経済効果の算出方法:トップ・ダウン・ビジネスケース
- 最後のグループは教育機関と研究者である。デジタルコンテンツへのアクセス向上は教材とeラーニングツール作成のためのコスト削減及び品質向上、ひいては教育の質向上に役立つかもしれない。経済効果の算出方法:教育と研究におけるコスト削減、教育と研究におけるアウトプットの向上
このうち、1と3は、金銭的な定量化がしやすく、2は金銭的ではないものの定量化が容易。4と5は、少なくとも調査時点では根拠となる数値が得難く、定量化しにくいものでした。
後半では、いわゆる「市場の失敗」が存在する、芸術、文化、遺産の領域で、Europeanaのような存在が必要な理由(政府の介入が必要な理由)が大きく6点述べられる。
- Europeanaは取引コスト(文化遺産や文化情報の発見コスト、また潜在的には第三者に対するライセンシング・コスト)を削減する。これは、クリエイティブ・インダストリーやアプリ開発者、文化遺産についての情報を探す消費者や研究者に波及効果がある。利益が発生しても、個々の利益に対しては相対的に高くつく可能性のある取引コストに鑑みた場合に、ユーザや受益者にかならずしも課金することができず、民間企業の意思決定においては必ずしも適切解が得られない。
- Europeanaがもたらす標準化なしには、次善の策というロックインにはまり、さまざまな機関が提供するデータベースが分断され、開発コストは嵩み、相乗効果は失われる(loss of synergy)。特に、デジタル化における規模の経済を利用できない小規模館は、標準化と、様々なコレクションのメタデータを統合することを目的推したアプリやウェブサイトとから恩恵を受ける。
- Europeanaは、民間企業がこの分野を率いた場合に、規模の経済を背景とした「市場支配力」によって生じるかもしれない歪みを緩和することができる。
- Europeanaは、(取引コストの削減による)付加的な使用許諾(lisencing)の仕組み著作権者に対してもプラスの外部効果をもたらす。
- 各機関は、いったんデジタル化した情報資源については、利用促進と維持のため、ひいてはデジタル化が経済や福利においてインパクトをもたらすための投資を十分に行わない傾向がある。Europeanaは情報資源の所有にかかる費用を削減することで、このような過少投資を緩和する。
- EU外の国々との関係でみた場合、いち早く、調整の枠組みを提供し、デジタル基盤についての標準を設定することによって、初動者の利益を得ることができる、他国はEuropeanaの標準に合わせることになる。EU外で標準が設定され、それに合わせる場合よりコストが抑えられる。
以上。