2017年9月21日木曜日

オーストラリアの研究データ関連の取組みについて。

オーストラリアの研究データ関連の取組みの大まかな全体像を捉えようとしている。
(必要に迫られたから)

で、色々見てたが、オーストラリア政府が2017年2月に刊行した、今後10年間(原文ではdecade)に政府が優先的に整備を進めるべき研究基盤についての提言、“The 2016 National Research Infrastructure Roadmap”にまとまってたので、関連するところを抜粋。

まず、研究基盤の整備において、オーストラリアが今後10年間で力を入れる分野としては、次の9分野。
・Digital Data and eResearch Platform 
・Platforms for Humanities, Arts, and Social Science 
・Characterization
・Advanced Fabrication and Manufacturing
・Advanced Physics and Astronomy
・Earth and Environmental Systems
・Biosecurity
・Complex Biology
・Therapeutic Development

このうち、研究データ等に関係するのは上の二つか。その概要を読むと、
  1. Digital Data and eResearch Platform (デジタルデータとeリサーチプラットフォーム)→すでになかなかいいeResearchシステムが出来上がっているので、今後はAustralian Research Data Cloudを構築することで、より統合的で首尾一貫した、信頼性の高いシステムを実現し、データ集約的研究、異分野横断的研究、国際共同研究のニーズに応える。
  2. Platforms for Humanities, Arts, and Social Science (人文学、社会科学分野の基盤) →オーストラリアの社会的・文化的データの発見、アクセス、キュレート、分析のプロセスに変化をもたらすような基盤整備を行う。

ということらしい。

で、1.について詳しく見ていくと、まず、動向分析として、
・デジタルデータへの依存度がどんどん高くなっている
・データは複雑化、膨大化し続け、扱う人間にも高度なスキルが要求されるようになっている
・国際的には、European Open Science Cloudのようなイニシアチブや、データのFAIR原則(findable, Accessible, Interoperable, Reusable)が重要性を増している

といった点が挙げられ、

次にオーストラリアが現状備えているものとして、(1)高性能コンピュータと(2)以下に箇条書きする様々な研究データ基盤がある、と続く。
  • Advanced Research and Education Network (大学、研究機関間のブロードバンド網)
  • Access and Anthentication Services (The Australian Access Federation が提供する学術情報へのアクセスコントロールと認証サービス)
  • 比較的適切に管理された研究データ(財団の出資により運営される組織であるThe Australian National Data Service (ANDS) が、研究者や機関によるデータの管理や連携を支援してきた。またFAIR原則への準拠や国際的な標準や実践についての啓蒙活動も実施している。)
  • 国の研究データストレージ(Research Data Services (RDS)が提供する)
  • デジタルツールとヴァーチャルラボを提供する研究クラウド(National eResearch Collaboration Tools and Resources (NeCTAR)が提供する、データの分析・利用のためのソフトウェアやモデルなどを共有するプラットフォーム)
次の目標としては、ANDS、RDS、NeCTARが連携して、統合的なデータ集約基盤の構築を目指す。これを仮に“Australian Research Data Cloud”と呼んでおり、ヨーロッパのEuropean Open Science Cloud のようなものを目指す、そして連携する、となっている。これは、データの作成、発見、記述、来歴、統合、保管、操作、分析、保存という全てのプロセスを支援する仕組みを目指すらしい。

2. の人文社会学系研究基盤の整備については、オーストラリア国立図書館が運営する
文化資源ポータルTroveの取組みを拡張するような形で、文化資源のデジタル化を進めるとともに、社会科学分野のデータの統合、また先住民研究のための研究基盤を充実させることなどが目標として掲げられている。

とりあえず、今日はここまで。これを調べた動機が、ANDS, RDS, NeCTARの活動のオーストラリア国内での位置付けを確認しようということだったので、第一段階としてはこの辺でまあいっかと。あとは最近の各機関からの刊行物等で個別の連携事業についての紹介があったので見ておく。



2017年9月8日金曜日

公開シンポジウム「ORCID 我が国の学術情報、研究者情報発信強化を目指して」 所感。

今日は、日本教育会館で行われたORCIDについての公開シンポジウムに、聴衆として参加してきた。特に配布資料もなく、かなり情報量も多かったので、以下、自分の理解できた範囲で記録。

組織としてのORCIDは、機関会員からの会費によって運営資金が賄われる非営利団体である(個人が登録する場合は無料)。現在、日本の学協会コンソーシアムを組織して、ORCIDに参加する可能性を探っており、今回のシンポジウムも、学協会に参加を呼びかけるのが主目的だった。

研究者を識別するIDとしてORCIDが世界的に普及しており、主要誌への投稿のために、日本の研究者が個人で登録するケースも増えている。ORCIDの本人に関する情報は、本人申告制を基本とするが、大学なり学協会なりが機関として参加し、個々の研究者情報を補足することで、その情報の信頼性を高めることになり、ひいては研究者支援になる。ORCID IDの取得を義務化する海外出版社や助成機関も出てきている中、このような会員サービスは学協会に必要なのではないか、というのが全体的に感じられたメッセージ。

スピーカーの一人である、物質・材料研究機構(NIMS)の谷藤幹子氏からは、昨今の学術情報流通の様相の変化(例えば“Perspective"といった従来型の論文とは異なる記事の増加、フォーマットがPDFやHTMLからXMLへ、図やデータが独立して流通、テキストマイニング用ファイルの提供)や、それを受けての図書館側の購入方法の変化(電子ジャーナル購入のためにコンソーシアムを組むという10年前のやり方から、各館が自館の利用者に最適な組み合わせを選ぶという方向へ)、また研究者のキャリアパスの多様化(若手を中心に短期で所属が変わる人が増えている、キャリアにブランクがあるなど)といった、ORCIDが有用となる文脈の紹介ののち、NIMSが提供する研究者プロフィールシステムSAMURAIにおけるORCIDとのAPI連携の事例紹介があった。

スピーカーからは、

  • 「非営利団体」といっても慈善団体ではなく、参加するのであれば、日本からも理事を出して、運営に積極的に関わっていかなければ、会費に応じたメリットが得られない。
  • 日本は依然としてデフレが続いているが、世界的にはインフレであり、会費は値上がりしていくと考えるのが自然である。
  • ORCID側で、機関規模に応じた傾斜のある機関会員の会費設定がされていないのが不可解。欧米の資本力ある学術出版社が参加する場合と、日本の小規模な学協会が参加する場合とが、機関会員として同額負担というのは検討の余地がある。

といった論点も挙げられた。

ORCIDに限らず、欧米主導の仕組みに乗っていくとした場合、私自身、この辺りのことが、一番引っかかっていたことだったので、明言してもらえてよかった。1点目、2点目については、参加する場合の「リスク」として管理していくことになるのだろう。

なお、3点目の傾斜負担については、コンソーシアムを作って参加すれば、コンソーシアム内で自律的に傾斜制を取ることも可能らしい。

とりあえず、こんな感じ。資料がいずれ公開されるはずなのだが・・・。

(9/20追伸:資料が公開されていました。https://sites.google.com/view/orcid-j-society/活動履歴