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2017年9月8日金曜日

公開シンポジウム「ORCID 我が国の学術情報、研究者情報発信強化を目指して」 所感。

今日は、日本教育会館で行われたORCIDについての公開シンポジウムに、聴衆として参加してきた。特に配布資料もなく、かなり情報量も多かったので、以下、自分の理解できた範囲で記録。

組織としてのORCIDは、機関会員からの会費によって運営資金が賄われる非営利団体である(個人が登録する場合は無料)。現在、日本の学協会コンソーシアムを組織して、ORCIDに参加する可能性を探っており、今回のシンポジウムも、学協会に参加を呼びかけるのが主目的だった。

研究者を識別するIDとしてORCIDが世界的に普及しており、主要誌への投稿のために、日本の研究者が個人で登録するケースも増えている。ORCIDの本人に関する情報は、本人申告制を基本とするが、大学なり学協会なりが機関として参加し、個々の研究者情報を補足することで、その情報の信頼性を高めることになり、ひいては研究者支援になる。ORCID IDの取得を義務化する海外出版社や助成機関も出てきている中、このような会員サービスは学協会に必要なのではないか、というのが全体的に感じられたメッセージ。

スピーカーの一人である、物質・材料研究機構(NIMS)の谷藤幹子氏からは、昨今の学術情報流通の様相の変化(例えば“Perspective"といった従来型の論文とは異なる記事の増加、フォーマットがPDFやHTMLからXMLへ、図やデータが独立して流通、テキストマイニング用ファイルの提供)や、それを受けての図書館側の購入方法の変化(電子ジャーナル購入のためにコンソーシアムを組むという10年前のやり方から、各館が自館の利用者に最適な組み合わせを選ぶという方向へ)、また研究者のキャリアパスの多様化(若手を中心に短期で所属が変わる人が増えている、キャリアにブランクがあるなど)といった、ORCIDが有用となる文脈の紹介ののち、NIMSが提供する研究者プロフィールシステムSAMURAIにおけるORCIDとのAPI連携の事例紹介があった。

スピーカーからは、

  • 「非営利団体」といっても慈善団体ではなく、参加するのであれば、日本からも理事を出して、運営に積極的に関わっていかなければ、会費に応じたメリットが得られない。
  • 日本は依然としてデフレが続いているが、世界的にはインフレであり、会費は値上がりしていくと考えるのが自然である。
  • ORCID側で、機関規模に応じた傾斜のある機関会員の会費設定がされていないのが不可解。欧米の資本力ある学術出版社が参加する場合と、日本の小規模な学協会が参加する場合とが、機関会員として同額負担というのは検討の余地がある。

といった論点も挙げられた。

ORCIDに限らず、欧米主導の仕組みに乗っていくとした場合、私自身、この辺りのことが、一番引っかかっていたことだったので、明言してもらえてよかった。1点目、2点目については、参加する場合の「リスク」として管理していくことになるのだろう。

なお、3点目の傾斜負担については、コンソーシアムを作って参加すれば、コンソーシアム内で自律的に傾斜制を取ることも可能らしい。

とりあえず、こんな感じ。資料がいずれ公開されるはずなのだが・・・。

(9/20追伸:資料が公開されていました。https://sites.google.com/view/orcid-j-society/活動履歴

2017年8月25日金曜日

永続的識別子の20年(文献紹介)

Klump, J. & Huber, R., (2017). 20 Years of Persistent Identifiers – Which Systems are Here to Stay?. Data Science Journal. 16, p.9. DOI: http://doi.org/10.5334/dsj-2017-009

インターネット上の情報のいわゆる「リンク切れ(Link rot)」に対する学術情報分野からの解決策として、様々な「永続的識別子(Persistent Identifiers, 以下 PID)」が考案されるようになってから、既に20年余り経つ。PIDの基本的な考え方は、識別の対象の「アイデンティティ」と「ウェブ上の所在情報」を分けることにあった。しかし、皮肉なことに、PIDを管理する組織の持続性を原因として、あるPID体系全体が存続の危機に陥ることもある。本文献は、主要なPIDの過去20年を振り返り、PID運営の成功と失敗の条件を考察したものである。以下、段落ごとに抄訳する。

●PIDの導入状況
研究データリポジトリのレジストリであるre3data.org (http://www.re3data.org)のデータに基づき、PIDの導入状況を見ると、2015年12月に登録されていた1381機関中475機関が何らかのPIDを採用している。複数採用している機関もある。「DOI」「Handle」「PURL 」「URN」「 ARK」「 その他」のうち圧倒的に採用数が多いのはDOIだが、「その他」も相当数あることが注目される。領域特有のPIDがあることを示唆する。機関リポジトリでHandleの採用例が多いのは、DSpaceの機能に組み込まれていることも影響していると考えられる。

●危機の2015−2016年
2015から2016年にかけて存続の危機に陥ったPIDが、OCLCが維持してきたPURLとライフサイエンス分野で普及していたLSIDである。PURLは中央の管理組織や共通のレゾリューションシステムがないことが特徴でそのため、2014年にOCLCが資金援助を辞めたことで危機に陥ったが、2016年からInternet Archiveが運営を担うことになり、新たなレゾリューションシステムも導入されたことで息を吹き返した。現在re3data.orgに登録中16機関で利用されているが、PURLだけという機関は少数である。LSIDは、生物多様性情報学の分野の標準的なPIDとしてTaxonomic Database Working Group (TDWG) が維持していたが、やはり中央の管理が緩く、DNSをベースとした複雑なレゾリューションシステムを用いていた。2016年にシステムの維持が難しくなり、レゾリューションサービスが停止、2ヶ月後に暫定的な対応として
再びサービスが提供されるようになったが、単純な記号管理(Cool URI)への移行が検討されている。

●生き残るPIDの条件
「信頼できるリポジトリ」の基準(criteria)が提唱され始めたのと同じ2008年頃から「信頼できるPID」の基準も提唱され始めた。Bütikoferは技術的・組織的基準を提示し、Duerrは使いやすさ(ユーザビリティ)を重視した。両者の結論には異なる部分もあるが、共に管理組織の持続性を重視している。管理組織の持続性の維持のために必要なのは、運営の透明性だ。運営の議論は公開されていない場合が多いが、付与促進の裏でエグジット戦略が議論されていたりするのは欺瞞である。リゾルバの要否については、今のところ「要」である。というのも、まだ完全なセマンティックウェブの世界が実現されていないからだ。

科学の記録の要素を永続的に、人間にも機械にもわかる方法で識別するということがPIDの重要な役割であるが、これは純粋に技術的な課題というよりも、社会契約(social contract)の問題である。しかしながら、あるPIDシステムに依拠したユーザコミュニティが広がるにつれて、このような社会契約が自ずと強化されると考えるのは幻想だ。商業学術出版社の後ろ盾があるDOIシステムが、現在最も成功している PIDであり、国立図書館の後ろ盾のURNやARKはマイナーな存在に留まっている。商業的な仕組みにうんざりしている一部の学術情報コミュニティのメンバーには呑み込みがたい事実かもしれないが、ビジネスモデルがPIDシステムに不可欠の要素であり、サステイナブルな  PIDは無料ではないのである。(抄訳以上)

 なお、最近の研究データやPIDの動向分析の文献によくre3data.orgの登録データが使われているな、と思う。例えば、これも→https://doi.org/10.1045/march2017-kindling