2010年5月19日水曜日

OA出版における出版社の役割

昨日、シュプリンガー・アカデミックのAlexander Schimneipennick氏から、オープンアクセス(OA)出版における出版社の役割についての講義がありました。同社は、「著者」を顧客として、OpenChoiceという「OA出版サービス」を展開しています。同時に「読者(図書館含む)」を顧客として、SpringerLinkという「文献提供サービス」を展開しています。(注:SpringerLinkはOA以外e-journal,e-bookも含めてSpringer社の持っているコンテンツをすべて検索できるサービスで、そのうち無料で全文閲覧できるもの(OA)については検索結果の左側に緑の印が出ます。)

結論は、出版社の仕事というのは、とどのつまり、この著者と読者をつなぐ「サービス」であって、「求められている」サービスを提供できれば、それに対して対価を支払う人はいるのだ、ということでした。

では、何が求められているのかというと、著者にあっては
・そこ(SpringerLink)に乗せればより多くの人が著作を読んでくれること
・研究成果がすぐに公開されること

読者(図書館)にあっては
・固定された、安定したコンテンツの所有者(perpetual accessのこと)になれること
・コンソーシアム契約ができること
・付加サービスが得られること(研究成果の地理的分布図、用語辞典のオンライン提供)

そして、この「サービス」の品質管理(Quality Control)のためにSTM出版社の編集者が行うことは、質の高い論文を得るための人脈作り、つまり著者とピア・レビュー要員の確保(ここは昔から変わらないコアの部分)。

OA出版について納得できることは、「公のお金でなされた成果は公に還元されるべき」という主張。一方で、「アフリカの子どもたちを救うために医療情報を無料で提供しなくてはいけない」といったような感情論は妥当でない。なぜなら、学術出版社が扱う情報は基礎研究的なものが大半で、現場ですぐに役に立つといった種類のものではないから。Springerは雑誌記事についてのOA対応はかなり進んでおり、Ebookについても取り組み始めたところ。

著者が、OA出版サービスを購入するという形のビジネスだが、著者の支払う価格はこのサービスを利用する人が増えれば下がることになる。

読者(図書館)の需要を満たすためには、「いったん出版したら原則コンテンツに変更は加えない」ということは非常に重要(Policy of integrety of materials)。(これについては、学生から「なぜコンテンツの入れ替えが容易という電子出版の利点を利用しないのか」という質問があったが、回答は「マーケットが求めているのは安定したコンテンツだから」という回答。)

現在、OAで出版される点数は増えており、STM出版社はこれには対応せざるを得ない(参考:DOAJ, Directory of Open Access Journal)。Springerは著者が自分のウェブサイトや研究助成機関のウェブサイトに論文のpre-printを掲載することを認めている。

同様のビジネスを展開している目下のライバルは、Hindavi, PLoS, Nature.com, Cell Death & Desease。

E-bookについては、E-journalとはやや異なる仕事の組み立てが必要で、目下検討中。
また、現在若い研究者に期待したいリサーチ分野としては、新しいソーシャル・メディアをどのようにSpringerの製品に取り込めるかという点。(「facebookの学術コミュニティへの影響」
について修士論文を書こうとしてる学生がいる、と教官が補足コメント。)インターンでSpringerに来る場合はこの点に取り組んで欲しい。Springerは、研究者のための研究者による出版社だった。ソーシャル・メディアによって我々の在り方が変わることができるのかどうか、というところが我々自身にも未知のところである。

…とだいたいこのような内容でした。より充実した情報はこちらから>http://www.springer.com/open+access?SGWID=0-169302-0-0-0

2010年5月17日月曜日

ふむ。

Wired Vision『「情報過多の時代」の鍵は「キュレーション」』http://wiredvision.jp/news/201005/2010051723.html
目に見える形、見えない形で起きている情報選別。
原文(英) http://www.wired.com/epicenter/2010/05/feeling-overwhelmed-welcome-the-age-of-curation/

2010年5月10日月曜日

ルーズリーフ式の手帳とか音楽とか

BBCで80年代についてのドキュメンタリーをやっています。音楽からテレビ番組から政治から何から、いかにばかばかしかったか(しかしいかにそれが今につながっているか)というようなストーリーに組み立ててあるのですが、どうやらルーズリーフ式の手帳がヒット商品になったのがこの時代らしいです。「いつもスケジュールがいっぱい!」な"go-faster generation"に受けたとか。

ところで、先日ジュネーブの民俗博物館で民俗音楽に関する展示を見てきました。最後に、現在の国別の音楽の商業的な売上げによる収入が、国の面積比として表示される特殊な地図が展示されていました。

日本、ダントツで大きかったです…。恥ずかしいくらい。

世界的に見て、英語圏の音楽より売れているとは思えないのですが、何かカラクリがあるんでしょうか。…で、やっぱりジャマイカとかルーマニアとかアフリカの多くの国とか、とてもとても小さいわけです。搾取の構造。。。

展示は「見る」より「聴く」展示でした。民俗音楽が記録され商業化していく中で、その調べやスタイルが変わっていく様子を聴いて体験することができるもので、小規模でしたが印象に残りました。

2010年5月7日金曜日

iPad。

知り合いのマックユーザーから強く勧められるiPad(オランダは6月発売予定)。「デジタルメディアとか勉強してるんなら経験しておかなくちゃ!」と言われ、MacFanやWired magagineの記事を読んで、その気になりつつあったのですが…。同分野の人と話すと意外としらけ気味。Appleが何やっているかわかったもんじゃないよねぇ…という反応もときどき。
参考> Brian.X.Chen,『強力な出版者としてのAppleと「検閲」の概念』http://wiredvision.jp/news/201004/2010043022.html
でもとりあえず買ってみようかな。ミニノートの代わりに。

2010年5月4日火曜日

オランダ児童文学


オランダ語イリテラシーから脱却のため、ちびちび努力していたオランダ語ですが、起爆剤が登場です。

左は、Toon Tellegen (トーン・テリヘン)という寓話作家の作品集、右は日本でもご存知の方が多いと思いますが Annie.M.G.Schmidt(アニー・シュミット)の『イップとヤネケ』です。テリヘンについては、こっちに来て始めて知りました。『イップとヤネケ』の方は、絵はよく知っていたのですが、記憶する限り読んだことはなく、オランダ原産ということすら(!)恥ずかしながら知りませんでした。こっちに来てオランダ人の友達に「子どものときに一番好きで何度も読んだ本」という折紙付きで貸してもらいました。

読んでみると、どちらもとても面白いのです。絵に味があり、オランダ語のリズムも心地よいです。

2010年5月3日月曜日

日本の(?)緑


4月末のジュネーブはとても温かく、花が満開でした。ちょうどライデンでシーボルトが持ち帰った日本の植物についてのレクチャーが開催されたところで、空港から市内への道すがら(5キロくらいなので歩いちゃいました)、ジュネーブ市内の日本から来たかも(?)な緑を楽しみました。かしわやカエデの新緑のほか、ヤマブキ、八重ヤマブキ、藤、アジサイといった花たちが、ポピーやパンジーに混じって元気に咲いていました。

Tessella社

Tessellaは、英国国立公文書館のファイルフォーマットデータベースPRONOMの作成やEUのプロジェクトのパートナーとして、電子情報の長期保存に古くから係わってきた企業です。英国国立公文書館、オランダ国立公文書館のほか、マレーシア国立公文書館、Wellcome Trust Library(イギリス拠点の医学情報図書館)、英国国立図書館等にOAISに基づいた電子文書リポジトリシステムを提供しています。
今回のECA2010での発表は、EUの電子情報保存プロジェクトPlanetsの一環として構築された電子情報の技術情報リポジトリの構築方法についての説明でした。技術情報リポジトリは電子情報の保存プロセスを自動化するための出発点であり、(1)旧式化を定義する要素、(2)マイグレーションツール及びエミュレーターに関する情報、(3)マイグレーションの成功度を図る指標、の三つを機械可読な形式で蓄えているとのことです。(1)については、各ファイルの機能レベル(例:更新履歴、パスワード機能)まで含めたかなり詳細なものになっています。それらの情報が、旧式化ファイルの抽出と処理プロセスの選択に必要だからです。成果はPlanetsの後継連合体であるOpen Planets Foundationのコア・レジストリへ引き継がれるとのことです。Tesselaの展開するOAIS準拠システムの詳細はhttp://www.digital-preservation.com/wp-content/uploads/DigitalArchiving.pdfを参照のこと。(新規の保存計画に係る機能ついては "Active Preservation" の項に詳しいです。)

2010年5月1日土曜日

ECA 2010


4月28日から30日の日程でジュネーブで開催された第8回ヨーロッパ・デジタル・アーカイビング会議(Conference on Digital Archiving)に参加してきました。いろいろ書きたいことはあったのですが、700名強のアーキビストたちとハイテンションな議論に揉まれてかなり疲労しており、何も手につかない状態なので、ちょっと気分転換に出かけてこようかと…。その前に、大雑把な雰囲気のみ。
日本では国会図書館がやっている政府系ウェブサイトの収集、ヨーロッパの多くの国では国立公文書館がやっています。従来の公文書の移管についての考え方だと作成から20年なり30年なり経てから公文書館に移管されるのですが、電子文書については、そんなに待っていたらリンクは切れるわ、ファイル形式は旧式化するわ、天変地異でファイルが失われるかもしれないわで保存上大きな問題なので、「早期介入」が必要ですね、というのが1点。イギリスやオランダの国立公文書館が「早期介入」の自分たちの取組事例を紹介していました。
もうひとつは、これまでどちらかというと「保存」に重点があったアーカイブ界ですが、これからはオンラインアクセスを積極的に考えていきましょう。デジタル化された資料はEuropeanaで一部提供されていますが、アーカイブ資料の多様性(と膨大な未整理文書)を考えると一足飛びにデジタル化を急速に進めるのは難しいし、アーカイブの伝統であるコンテキスト情報や文書の構造についての情報などの価値も未来に伝えたい。そうするとEuropeanaへの協力は協力として、国内レベルで二次情報も含めたポータルサイトを整備したい。あれあれ、となると、記録管理標準の適用について、公文書館間で足並みをそろえて、機械処理が可能なメタデータ標準を作っていく必要がありますね、というのが2点目。
3つ目は、EUの電子情報保存プロジェクトPlanetsの終期が迫り、成果が出揃ってきたのでその報告でした。この4年間で、電子情報保存プロセスの自動化については、技術情報リポジトリの構築と保存計画の策定の分野で大きな進歩があったようです。